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ワラワランド - リフジウムで水槽に微生物やバクテリアを

1. 微生物の存在

現在皆さんはどんな方法でマリンアクアリウムを楽しんでおられるでしょうか? 従来濾過?それともナチュラル? 「ナチュラル」と答えた貴方!それはベルリンですか?モナコですか?それとも全く違うシステムかしら? その水槽にはきっとライブロックや底砂が入れられている事と思いますが、 では、底砂は乾燥砂を用いましたか? それともライブサンド? 海水は全て人工海水でしたか? それとも天然海水? そしてプランクトンパックの使用経験は?

なぜこのような事を訪ねたかと言いますと、 実はこれらの条件によって水槽内の生物層が大きく違ってくるからなのです。 いえいえ、魚やサンゴだけの話ではありません。 水槽を立ち上げた時に使用したライブロックやライブサンド、 天然海水やプランクトンパックの中には、元々海で生活していた実に豊富な種類の生き物たちが含まれています。 例えば、ウニやカニ・エビの仲間、ゴカイや貝の仲間、そしてもっと小さなプランクトンのような微生物です。 彼らはそれぞれが海の大事な一員として働き、決して無駄な存在ではありません。 彼らが底辺で支えていて始めて、魚やサンゴの世界が繰り広げられているのです。

図1:サンゴ礁の生態系

しかし、水槽内でこれら全てを導入または再現しようと言うのは無理な話です。 仮に珊瑚礁の綺麗な風景を魚やサンゴごと切り取ってきて狭い水槽に押し込んだとしても、 いずれ弱い者からどんどん淘汰されていき、当初の海とは比べ物にならないくらい生体は激減するでしょう。 あるいは特定の生物だけが天敵の欠如によって蔓延するかも知れません。 よってこれらを安定維持するためにはそのためのシステムとバランスを考えなければならないと言う事になります。

幸いナチュラルシステムは極めて珊瑚礁に近い環境を創ろうとする水槽システムであり、 太陽の変わりにはメタハラ、波の変わりには水流ポンプ、水温安定のためのクーラー&ヒーター、 水質維持のためのスキマー&カルシウムリアクターなどなど、 これら生命維持装置の駆使と可能な限りの豊富な水量によって 辛うじて海に近い環境を創り出す事にほぼ成功しています。 従ってこの海の再現システムが、如何に本来の珊瑚礁のレベルに近づけられているか次第で、 切り取った海の生物層の維持出来るレベルが決まってくると言っても過言ではありません。 勿論この時、生態系のピラミッドを考える事も重要な部分です。ピラミッドが頭でっかちだったり、 ひょうたんのようではうまくバランスが取れず、やはり極端に貧相な生物層に向かっていく事は必至です。 うまくバランスを考えて生体が偏る事の無いよう、 また可能な限り色んな性質や食性を持つ生体をバランス良く収容する事で、 それぞれの水槽内での役割分担が成され、 より海に近い生態系が繰り広げられていくに違いありません。 勿論、海と比べればこのレベルは雲泥の差でしょうが、 水槽は水槽らしく水槽にあった生態系が必然的に形作られていくでしょう。 こうして出来上がった水槽内の生態系は、余程の外的要因が無い限り、 そう簡単に誰かが蔓延るような事も少なく、バランスのとれた生態系として維持されていく事でしょう。

2. 食物連鎖と受け渡し役

下の図2は一般的にありがちな水槽の一例です。

Q1. この水槽では、好きな魚をそこそこ収容しています。そしてコケが生えるので、 ギンポやシッタカも入れています。 ガラス面はギンポやシッタカがある程度は綺麗にしているようです。 しかしそれでも水槽のあちこちにコケが生えて困っています。水質が悪いのかと一生懸命換水もしています。 少し気休め程度にコケが減ったような気がします。それでもコケの類は一向に無くなりません。 何故でしょうか?

図2:生物層が貧相な生態系

主な原因としては、

  1. 食物連鎖に連携しない給餌の必要な魚ばかりが極端に多い
  2. 天敵の居ない種のコケにとっては楽園の如く増え放題である
  3. コケの栄養源となる底辺の分解吸収処理を行う生物が居ない

1.については、当然これは魚は多ければ多いほど給餌も多く必要とします。 それだけ海水が汚れると言うことですので、なるべく魚は少な目に、 ホントに入れたいモノだけに絞るべきです。
2.についての対処としては、エビ、ヤドカリ、ウニなども導入し、 とにかくコケが摂取される機会を増やす。
3.についての対処としては、ナマコ、エビ、ヤドカリ、ハゼなども導入し、 残飯処理による栄養源の処理と、撹拌によるコケの生育チャンスを減らす。

しかし、これだけでは多少の抑制要因が増えただけに止まり、 これらの絶対数とバリエーションがあまりにも足りません。 これでは限られた種のコケだけにしか効果は発揮されず、根本的な対策とは言えません。 では、一体どうすればいいのでしょうか?

A1. それは高次消費者への受け渡し役の導入です。いわゆる「微生物」たちの収容です。 とは言っても意図してこれらを選定して導入する事は困難です。 現在可能な方法としては、色んな生物が住んでいるであろう未知数を秘めた ライブロックやライブサンドの導入、更にプランクトンパックなどを用いるともっとも効果的でしょう。 これらを導入する事で得られる効果は、 まず色んなコケの因子に対応した天敵を送り込む事となる可能性を秘めている事と、 その活動によってコケの栄養源の処理と底砂の撹拌、 また一部の有機物などを底砂各層で働くバクテリアの栄養源として受け渡す事にもなり、 そしてこれらの生物の圧倒的な繁殖力と生体密度によって、 結果的にコケや植物プランクトンなどの勢力は大幅に押さえ込まれる事になります。 しかし、かと言ってこれら受け渡し役が増えすぎる事にはなりません。 利用出来る栄養源の量や水槽内での高次消費者らによって摂取される事でその数も制限されるのです。 これが水槽内での自然淘汰であり、ちょっとした食物連鎖の再現なのです。 数・種類こそかなり単純ではありますが、れっきとした水槽内循環システムと言えるのではないでしょうか。

図3:ナチュラル水槽の生態系

上の図3は私の水槽の場合の生態系の簡単な説明ですが、 一般でもナチュラルシステムがうまく機能していれば大体こんな感じだと思います。 私の場合はプランクトンパックなどの利用も重要視していますが、 その他にもナマコやウニ、シッタカなどは勿論のこと、ご存じの通り大量のヤドカリチームも組んでいます。 彼らもまた、ライブロック等に生えるコケを主にせっせと食べてくれますので、 微生物以上に重宝しています。彼らを総動員する事で、水槽全域に渡り、 ライブロックや底砂をピカピカに保つ事は実に容易です。 別にコケが生える事をダメだと言っている訳じゃありませんが、 やっぱりこれは鑑賞を第一の目的とした趣味ですからね。

3. 底砂住人と水質への関与

ナチュラルシステムに於いて底砂による水質浄化サイクルが行われていることはご存じの通りですが、 その効果と働きは、 水流や光、底砂の粒子サイズは勿論のこと、ベントスが表層を撹拌する度合いや、 底砂中に生息する微生物類たちの働き具合などにも、実は大きく左右されています。 これは、表層の撹拌と微生物類の昇降運動が、 底砂内の酸化還元電位や各層に運搬される栄養源の有無に関わっているからです。

Q2. 例えば極端な話、ある程度の魚を収容している水槽で、底砂を単一の細かな粒子サイズで、 しかも何の生物も付着していない乾燥砂を用い、 またベントスなどの撹拌要素や微生物類が全くなかったとしたら一体どうなるでしょう?

図4:撹拌の乏しい砂層

恐らく上の図4のようになっていくでしょう。決して機能していない訳ではありませんが、 その処理量は極めて弱いモノだと思います。 何故なら水流のみが辛うじて表層を撫でているものの、それ以外の撹拌要因が無いため、 底砂内はごく浅い部分から酸欠に傾き、 デトリタスは表層にそのまま残り、表層には色んなコケが蔓延するでしょう。 しかしそれだけでは終わりません。 この事から、好気的な層は表面のごく僅かな範囲に止まり、 そのすぐ直下にはあのイヤな硫化水素を発生させる硫酸還元層が形成されてしまう危険性が高いということです。 また、表層に放置された魚の糞や万が一の生体の死骸などは、 分解者が居ないとただ腐敗が進み水質の悪化や硫化水素の発生にも繋がります。 私が考えるに、希に硫化水素の発生が原因で水槽が崩壊したという話を聞きますが、 まさにこのような環境だったのではないかと思います。 何らかの原因で生体の死骸が放置されたり、また少しでも砂が掘り起こされてしてしまうと、 結果は見えていますから・・・。
では一体どうしたらこのような事故を防ぐことが出来るのでしょうか?

A2. もっとも有効な対策として、ナマコやヤドカリのような撹拌生物を多数導入し、 ライブサンドのようなバクテリアの付着した砂を用いたり、 また色んなサイズの砂をブレンドしてプランクトンパックを導入し定着させる。 後は当然のことながら、強い光と強い水流、適度な栄養源などがこれらを支えていきます。 これらの事は、別に事故を防ぐための手段ではなく、 理想の「海」を創るための近道としての策であり、事故への危険性が減るのはあくまで結果論に過ぎません。

図5:理想的な砂層

上の水質循環サイクル図5はあくまで理想の1つですが、 実際の水槽では3層目の硫酸還元層は無くても構わないと思います。 仮に例え層が形成されたとしてもその上の層が厚く存在していれば硫化水素の飼育水への流出は起きないか、 または僅かに立ち上る硫化水素はその上層に控える通性嫌気性細菌の一部によって 硫酸イオンに戻されるでしょうし、 第一、余程底砂を厚く敷かないとこのような酸化還元電位層は現れないと思います。 何故なら、逆に浅くに出現するようなら理想図としての各層が形成されていないと言う事になりますから。

砂の表面

このようにベントスらによる撹拌が満遍なく行われた底砂の表面というモノは、 写真のように表層が粒の粗いサンゴ砂やライブロックの破片で覆い尽くされています。 単一のサンゴ砂だけでは見られない現象です。 そしてこのような瓦礫(がれき)を格好の住処として生活するのがベントスを始めとする 動物プランクトンや各種微生物類たちです。 彼らは底砂の表面に溜まったデトリタスなどを処理し、もっとも無害な物質へと変換していきます。 またその下の層にはゴカイや線虫の仲間が常に表層と下界を行き来しています。 かれらもまた、デトリタスなどを処理すると共に、 還元層に発生した窒素をうまく表層へ逃がす働きも兼ねています。 また彼らの昇降運動によって下界へ運ばれるデトリタスは、 その層のバクテリアの還元活動に必要な栄養源としてうまく利用され、 結果水槽の水質は循環していく訳なのです。 このような「底砂の撹拌」と「栄養源の処理」が繰り返される限り、 底砂は常に綺麗に維持され、硝化・還元層を活性化し、 これらの結果コケは利用する栄養源どころか、その生えるスペースすら与えられない事になります。 まさに素晴らしい自然の仕組みだと言えるでしょう。

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