海を創るには



まず海を知る


海洋生物を飼育するにあたり、まず知っておかねばならないことは、「普段彼らはどのような環境で生活しているのだろうか?」と言う部分です。 これを知らずして水槽が立ち上げられるはずもありません。
基本的な海洋の環境値を知ることで、まずは自分がこれからどのような世界を水槽に繰り広げていくことになるのかを掴んでください。

一口に海洋の環境値と言っても様々な分類がありますが、ここでは比重・水温・pH(ペーハー)・栄養塩・その他の水質・光環境について学びます。



比重について

海水の場合の比重とは主に塩分濃度を指したもので、一般的に海洋では平均して約「1.023」の世界が繰り広げられています。ちなみに当サイト名 1.023world の由来です。
ここで「1.023」と言う値を書きましたが、これは真水を「1」とした場合の相対的な値で、約3%程度の塩分濃度を表しています。 但し全ての海洋が必ずしも 1.023 と言うことではなありません。 極端な例では、例えば河口付近のように淡水と海水が混じり合う水域では比重の低い「汽水」となります。 逆に比重が高いことで有名な「死海」と呼ばれる湖では、なんと塩分濃度が30%以上(比重1.2)も占め、人が楽に浮かぶことでも知られています。 このように地域によって水の流入や乾燥の影響を受けたりすることで、海水にも比重の違いが見られます。

海水水槽に於いては、特に例外的な生体を取り扱わない限り、基本的に 1.023 程度の比重を実現していきます。 また比重の調整は、飼育水を作る際に真水に溶かす塩の量を比重計で確認しながら行います。
ちなみに巷では高めの比重が良いとか低めが良いなどの議論もたまに見受けられますが、 生体が当たり前に生活していた当たり前の環境を、どうか人間の都合でねじ曲げる事の無いように心掛けたいものです。


水温について

海洋の水温は地域や季節によってさまざまです。寒い北国と暖かい南国を比較したなら、その差は恐らく±20℃では収まらないでしょう。 特に我々が暮らす日本に於いては四季の影響もあり、いくら沖縄と言えども年間を通して見れば水温の変化は比較的見られます。 またマリンアクアリウム向けに南国から輸入されている海洋生物の原産地でさえも、厳密に見れば色んな要因により水温の変化は少なからずあるものです。

しかしここで履き違えて欲しくないのは、これらの変移の多くはあくまで長期的変移であり、そもそも海洋にはあの広大な面積と膨大な体積による絶対的な規模の緩衝力があると言うことです。 そのため、水温の変化は要因の如何に関わらず極めて緩やかに行われ、短かな単位時間に於いてはなかなかその変移を感じるまでには至りません。
そのような高い安定度の中で守られて生活してきた生き物ですから、水槽と言う室温変化の影響を受けやすい環境に於いては極めて高いレベルの水温管理が求められるであろう事が理解できると思います。 ましてやこのような水温管理が実現されていない水槽では、部屋が暑い→空調を入れる、部屋が寒い→ストーブを入れる、このような変化は絶対に与えるべきではありません。 激しい気温変化の中で暮らしている我々でさえ、季節の変わり目に体調を崩してしまう場合もあるように、それが彼らにとって許されるか否か、自ずと答えは見えてくるはずです。 こうした水温の変化により生体はストレスを受け、やがて負担が大きくなれば衰弱へと繋がります。そしてそれは万病の始まりとなるのです。

最近は温暖化の影響もあり、全体的な海水温の上限も若干高くなってはいますが、それでも生体の生理的な許容上限はせいぜい30℃程度でしょう。 それ以上では有害な細菌の異常増殖やサンゴの白化現象などが引き起こされることが判っていますから、水槽に於いてもこれを越えるべきではありません。 一方下限を考えた場合、季節や他の影響により年間を通した低水温期は少なからずありますから、 多くの生体は「低水温」への許容力ならば多少は持っているかも知れません。しかし「高水温」はダメです。

実際の水温管理に於いては、価格の問題もあってクーラーを設置していない入門初心者が比較的多く見られます。 生体にとって水槽が牢獄とならないためにも、まずはヒーターよりもクーラーが必須であると理解しましょう。 そして水槽に於いては、例外的な生体を取り扱わない限り、基本的に水温は 25℃ を目安として実現していきましょう。


水素イオン濃度(pH:ペーハー)について

水素イオン濃度とはpH(ペーハー)の事で、水の酸性やアルカリの性質を表す指標のことです。 海洋では日中は海藻やサンゴの光合成によりpHは高く推移し、夜間は低めに推移しています。平均して約8.2〜8.4程度と言われています。

また、生物の呼吸により酸素が消費されたり、生物の糞や死骸等がバクテリアに分解される際にも酸素が消費されることで、pHはどんどん低くなり酸性に傾きます。 あるいは人の多い部屋やストーブを利用する部屋では二酸化炭素の濃度が高くなり、やはり結果的に水槽のpHは低くなってしまいます。

よって水槽では常に曝気(エアレーション)による酸素補給が不可欠となります。
しかしpHは後に出てくる炭酸塩硬度(KH)と相反する関係を持っていて、一方を上げるともう一方は下がると言う性質があり、なかなか両立が難しいとされています。


栄養塩について

「栄養塩」とは言っても、生物に必要な栄養素として表すものではなく、海洋に於いては汚染の指標として表現されます。時に赤潮が発生する原因とも言われています。
その元となるのは、生き物の糞や死骸が分解されたものが由来であったり、それらの河川からの流入であったり、また海洋深層水には比較的高濃度でこれらが蓄積されています。 そしてそれらはバクテリアや海藻など光合成生物等により分解・吸収されますが、魚や甲殻類等の動物たちは直接利用することは出来ません。

水槽に於いては、まず魚への給餌により必然的に糞や残飯、その他呼吸等の代謝が由来となり、そして水槽に湧いたバクテリアたちがそれらを分解(酸化)して、最終的に「栄養塩」が生成されていきます。 この時の主な行程は、有機物→アンモニア→亜硝酸→硝酸となりますが、硝酸以降は蓄積の一途を辿ります。 そしてこの硝酸自体は元のアンモニアから比べれば比較的無害な栄養塩ではありますが、それでも溜まりすぎると生体へダメージを与えます。
その他、栄養塩には珪素(シリカ)、リンなどがありますが、これらも硝酸のように蓄積し生体へのダメージとなりますので、 いずれの栄養塩も定期的にこれを監視して排出(換水)する必要が出てきます。

実は自然下ではこれら栄養塩は更に分解(還元)される行程があり(窒素循環・リンサイクル)、例えば硝酸の場合は窒素に戻され大気に還元されていきます(脱窒)。 この仕組みは水槽でもある程度は実現可能なのですが、それは水槽のシステムと生体数に大きく影響を受けるため、完璧な実現はなかなか難しいようです。

よって水槽ではなるべく生体を入れすぎないよう注意し、結果的に給餌量を少なくできるよう心掛けましょう。 また定期的に換水する事によりこれら栄養塩は排出され、また失われた各種成分も補給されます。


その他の水質について

その他の水質は水槽のシステムにより意識する度合いが異なりますが、基礎知識として知っておくと良いでしょう。

炭酸塩硬度(KH)

炭酸塩硬度とは、海水中に含まれる重炭酸イオンの量を示すもので、これが高い時はpHの変動は小さく、低いとpHは大きく変動します。pHの急変を避けるためにも、KHはなるべく高めが理想的です。
しかしKHはサンゴや海藻等が重炭酸イオンを消費する事で徐々に低下していきます。 これを補うには換水かバッファ剤、カルシウムリアクター等が有効ですが、バッファ剤は後のイオンバランスを崩していくのであまり多用できません。

海洋に於いての一般的な値は6〜8dKH程度ですから、およそこの値を目安としてください。
先にも書いたとおり、これは光合成生物が利用する重炭酸イオンの操作になりますから、あまり高すぎると海藻やコケの大繁殖を招きます。 また入門初心者は窮屈な水槽にサンゴを多く陳列する傾向がありますが、この場合のKH維持には重炭酸イオンの供給が追いつかずどうしても異常に高い数値が必要になりがちです。 しかしいくらKHを高くしても、その消費回路は日中の光合成時のものであり、逆に夜間の呼吸時にはその生体密度が仇となり結局pHは下がりやすい傾向となるでしょう。
このような操作は生体にとっても大変負担となりますので、無闇にサンゴを敷き詰めるのはなるべく避けましょう。

酸化還元電位(ORP)

酸化還元電位(ORP)とは、酸化させる力と還元させる力との差を電位差で表したもので、プラス電位だと酸化方向、マイナス電位だと還元方向にあると言う意味になります。 通常海洋に於いては、生物が酸化活動している空間ではプラス電位、反対に砂の中などバクテリアの還元活動空間ではマイナス電位となります。もちろん海水中はプラス電位で、平均しておよそ350mV前後とのことです。
ちなみにこの値で何が判るかと言うと、その電位値の大小によっておよそ水槽内での主に酸化の余力と異変を図ることが出来ます。 単純に考えて生物は酸化要因ですから、魚が多いほどORPは低く推移します。これを見れば、生体の追加が可能かどうかの目安にもなります。
また、ある日突然普段よりもORPが低下したともなれば、普段の活動にはなかった酸化要因が何か発生していると考えられるので、生体が死んでいないか等の確認要素ともなるのです。

水槽に於いては、余裕を持ったORPの値を維持したいものです。 上記でも触れたように、生体を入れすぎないのが一番の方法ですが、とにかく曝気(エアレーション)を絶やさないこともORPを維持する有効な方法の一つです。

その他

これらの他にも、水質に関係しているものには、カルシウムや各種微量元素などいくつか挙げられます。 そして生物は少なからずこれらを消費していますので、厳密にはこれらをいずれも必要量与えるのが理想的です。
では実際にどうやって供給すればいいのか?

実は大変に難しい問題です。 もし本当にそれを実現しようと思うならば、それらの量を全て監視しなければなりません。また補給の際にも何をどれだけ入れたのか把握できていなければなりません。 しかしそれは現実問題無理でしょう。膨大な知識と設備が必要になるからです。かと言って無闇に目分量で添加するとイオンバランスを崩しかねません。
一番の解決法は、定期的に換水する事です。人工海水は生成時点では天然海水の成分をほぼ実現しています。

よって水槽のシステムが何であれ、定期的な換水は非常に有効と言えるでしょう。
但し、ヨウ素だけは別途水槽へ添加することをオススメします。ヨウ素は生体の免疫維持に対して必要な微量元素です。またヨウ素は入れてもすぐに揮発するので、毎日少量ずつ入れても問題有りません。


照度について

どれだけ明るく光に照らされているかの度合いです。 普通、部屋の照明の明るさなら頭の高さで約1,000Lx程度だと思いますが、サンゴ礁で育つサンゴは明らかにそれの何十倍もの照度の元で光合成を行っています。 造礁サンゴを成長させようと思ったら、蛍光灯をどんなに並べるよりもメタハラランプを利用した方が手っ取り早く照度が得られるでしょう。
ちなみに自然下では晴天時の陸上で100,000Lx(ルクス)前後、水深5M前後では約50,000Lx程度とされています。


色温度について

海は深くなるにつれて青以外の色は吸収され、色彩が青っぽく見える事はご存じだと思います。 色温度とは光の色味の見え方を表すもので、この値が低いほど赤っぽく、高いほど青みが強くなります。 サンゴの色も水深による色温度の影響が強いので、水槽内でサンゴの色彩を保つにはそれ同等の色温度を再現することが理想的と言えるでしょう。
ちなみに自然下では晴天時の陸上で6,000K(ケルビン)前後、水深5M前後で約15,000K程度とされています。


紫外線(UV)について

紫外線には主に3種類があり、UV-A、UV-B、UV-Cとに分けられますが、UV-Cはオゾン層で吸収され地表には届きません。またUV-Bも多くがオゾン層で吸収されますが、一部は地表に到達します。 そこで一般に問題となるのはUV-AとUV-Bですが、前者は生物にとってのメリットもあり、ビタミンの形成に役立っているとも言われています。後者は主に皮膚癌の元とも言われています。
とは言え紫外線はガラスや水中での減衰量が大きいので、海洋生物に与える影響は陸上のそれは当てはまりません。しかし少なからず影響はあるようです。 特に浅海域のサンゴにはこれら紫外線に対する色素を持っていて、それがサンゴの発色に大きく関わっていると言われています。
ちなみに自然下では晴天時の陸上でUVの総量が約3mW/cm2前後とされています。



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