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あ~まん大学 > Pagurixus Melin, 1939/ヒメホンヤドカリ属に見られる2つの種群


* 2010/05/15 更新 new!

今回もマニアックな話題ですが、近年ヒメホンヤドカリ属で確認されている2つの種群*についてご紹介しようと思います。

* 念のため、この種群は正式な亜属には設定されておりません

ちょうど昨年の3月(2009/03/22)に 国立科学博物館 から出版された 研究報告A類:動物学 増補 (Bulletin of the National Museum of Nature and Science)の第3号に、駒井先生と奥野先生によるヒメホンヤドカリ属の新種記載論文(Komai & Okuno, 2009)が掲載されましたので、それを基に話を進めたいと思います。

まずは、タイトルと要約の部分のみ引用させていただきます。

Two New Species of the Hermit Crab Genus Pagurixus (Decapoda: Anomura: Paguridae) from the Western Pacific.

Abstract:
Two new species of the pagurid hermit crab genus Pagurixus Melin, 1939 are described and illustrated.
Pagurixus purpureus sp. nov., known from Japan and Papua New Guinea, is morphologically similar to P. boninensis (Melin, 1939), P. paulayi Komai and Osawa, 2006, and P. ruber Komai and Osawa, 2006.
Pagurixus acanthocarpus sp. nov., so far restricted to Japanese waters, appears close to P. fasciatus Komai and Myorin, 2005, P. handrecki Gunn and Morgan, 1992, P. nanus Komai and Takada, 2006, and P. dissimilis Osawa and Komai, 2007.
Distinguishing characters between respective new species and their allies are discussed.

ちょっと学名部分を見やすくしてます

およその訳。

西太平洋から見つかったヒメホンヤドカリ属の2新種

要約:
ヒメホンヤドカリ属(Pagurixus Melin, 1939)の2つの新種について記載し特徴を示します。
日本とパプアニューギニアから見つかった新種の P. purpureus sp. nov. は、P. boninensis (Melin, 1939)P. paulayi Komai & Osawa, 2006P. ruber Komai & Osawa, 2006 等に形態的に近縁です。
日本海域からのみ見つかった新種の Pagurixus acanthocarpus sp. nov. は、P. fasciatus Komai & Myorin, 2005P. handrecki Gunn & Morgan, 1992P. nanus Komai & Takada, 2006P. dissimilis Osawa & Komai, 2007 に形態的に近縁です。
それぞれの新種と所属間の特徴について議論しています。

要約からも、それぞれの新種が異なるグループに属している事が伺えますね。

実は現在、ヒメホンヤドカリには2つの種群が確認されており、ある特徴に基づき、Pagurixus boninensis グループPagurixus anceps グループ とに分けられています。

まず、P. boninensis グループには、上記要約の通り、今回の新種 Pagurixus purpureus Komai & Okuno, 2009 を含め、P. boninensis (Melin, 1939)P. paulayi Komai & Osawa, 2006P. ruber Komai & Osawa, 2006、等が含まれます。

そして、P. anceps グループには、今回の新種 Pagurixus acanthocarpus Komai & Okuno, 2009 を含め、P. fasciatus Komai & Myorin, 2005P. handrecki Gunn & Morgan, 1992P. nanus Komai & Takada, 2006P. dissimilis Osawa & Komai, 2007、等が含まれています。

ちなみに、これまでのヒメホンヤドカリ属内の各グループ分けは以下の通り (海外含む)

Pagurixus boninensis group. (オガサワラヒメホンヤドカリ グループ)

  1. Pagurixus laevimanus (Ortmann, 1892)
  2. Pagurixus maorus (Nobili, 1906)
  3. Pagurixus boninensis (Melin, 1939)/オガサワラヒメホンヤドカリ
  4. Pagurixus tweediei (Forest, 1956)
  5. Pagurixus festinus McLaughlin & Haig, 1984
  6. Pagurixus nomurai Komai & Asakura, 1995/イダテンヒメホンヤドカリ
  7. Pagurixus brachydactylus Komai & Osawa, 2006
  8. Pagurixus carinimanus Komai & Osawa, 2006
  9. Pagurixus concolor Komai & Osawa, 2006
  10. Pagurixus paulayi Komai & Osawa, 2006
  11. Pagurixus pseliophorus Komai & Osawa, 2006/サミダレヒメホンヤドカリ
  12. Pagurixus pulcher Osawa, Fujita & Okuno, 2006/セイリュウヒメホンヤドカリ
  13. Pagurixus ruber Komai & Osawa, 2006/クレナイヒメホンヤドカリ
  14. Pagurixus purpureus Komai & Okuno, 2009/スミレヒメホンヤドカリ - 追加

Pagurixus anceps group. (ユビワヒメホンヤドカリ グループ)

  1. Pagurixus hectori (Filhol, 1883)
  2. Pagurixus anceps (Forest, 1954)/ユビワヒメホンヤドカリ
  3. Pagurixus jerviensis McLaughlin & Haig, 1984
  4. Pagurixus handrecki Gunn & Morgan, 1992
  5. Pagurixus amsa Morgan, 1993
  6. Pagurixus granulimanus Morgan, 1993
  7. Pagurixus stenops Morgan, 1993
  8. Pagurixus kermadecensis de Saint Laurent & McLaughlin, 2000
  9. Pagurixus fasciatus Komai & Myorin, 2005/カシワジマヒメホンヤドカリ
  10. Pagurixus longipes Osawa, Fujita & Okuno, 2006/アシナガヒメホンヤドカリ
  11. Pagurixus patiae Komai, 2006
  12. Pagurixus nanus Komai & Takada, 2006/ケシツブヒメホンヤドカリ
  13. Pagurixus haigae Komai & Osawa, 2007
  14. Pagurixus dissimilis Osawa & Komai, 2007
  15. Pagurixus acanthocarpus Komai & Okuno, 2009/コンペイトウヒメホンヤドカリ - 追加

では、これらのグループ分けの鍵となる ある特徴 について触れましょう。

各ヒメホンヤドカリがどちらに属するかを見分ける材料としては、 主に第一触角第3節(先端側)の腹面(下側の面)の表面に縦に並ぶ起毛の列が2列あるかどうかで見分けるそうです。 (下図を参考のこと)

Pagurixus boninensis group.

Komai & Okuno, 2009. (145P)

"belongs to the P. boninensis group because of the possession of two setal rows on the ventral surface of the ultimate segment of the antennular peduncle."

"もし触角柄先端の腹面表面に2つの起毛列を持つなら、P. boninensis group に属します"

この図の作成には Pagurixus brachydactylus Komai & Osawa, 2006 の模式標本を参考にしました。

今回の新種の場合でも、スミレヒメホンヤドカリではこの列が2本見られるため P. boninensis group に属することになり、 一方、コンペイトウヒメホンヤドカリは上記の列が欠如しているため、P. anceps group に属することになります。

もちろんこの特徴は肉眼では判断が困難ですから、実体顕微鏡などを用いて確認する必要があります。

ただ、これは僕の私感ですが、今のところ見る限りでは、 比較的大型になる種が P. boninensis group、小型種が P. anceps group、と言う印象も受けるので、 既知種のグループを覚えるには、ある程度の目安にはなりそうですね。

と言うわけで、とりあえず現在 ヒメホンヤドカリ属には、オガサワラヒメホンヤドカリグループとユビワヒメホンヤドカリグループの2つのグループ分けがある、 と言うことを覚えておきましょう。覚えたら2時限目の授業は合格です。
更に気になる生徒は、一度顕微鏡で確認してみてください。ま、ヒメホンヤドカリの採集自体、困難を極めますけど(笑)

尚、これらのグループに関しては、過去にそれぞれの論文が駒井先生と大澤先生により Zootaxa から出版されていますので、機会があればそちらもご覧ください。

ちなみに今回の新種記載論文(Komai & Okuno, 2009)には、僕を含め、伊豆大島の有馬さんや屋久島の原崎さん、柏島の西村さんらのご協力により、標本が提供されています。

Pagurixus purpureus Komai & Okuno, 2009/スミレヒメホンヤドカリ

ホロタイプ:
♂ SL 3.4mm 原崎さん
パラタイプ:
♀ SL 2.1mm, ♂ SL 2.1mm, ♀ SL 2.3mm 有馬さん
♀ 2.3mm 西村さん
♀ SL 2.0mm, ♀ SL 2.3mm 明林(僕)
その他パプアニューギニアからも雌雄5個体 Paulayさん
ノンタイプ:
♂ SL 1.2mm 有馬さん

Pagurixus acanthocarpus Komai & Okuno, 2009/コンペイトウヒメホンヤドカリ

ホロタイプ:
♂ SL 1.5mm 明林(僕)
パラタイプ:
♂ SL 1.6mm 明林(僕)
♀ SL 1.8mm 有馬さん

新種を判断するためには、既知種の特徴は勿論のこと、そのバリエーションや成長過程の変異等もある程度把握しておく必要があります。 それらの情報が蓄積されて始めて、そこからの消去法によって新種かどうかの判断が得られやすくなるでしょう。

さあ、次はあなたの番ですよ♪

この授業で参照したリファレンス


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